なんだ、この美青年……。見た目の噂は、ちっとも聞かなかったぞ。

 いや、待て。きっと歳下だ。この顔立ちは、三十は越えてないはず。


 まじまじと見つめていたのに気付いたのか、新人クンは探るような視線を向けてきた。


「キミって、噂の新しい助手?」

「はぁ……雑賀 恭介(さいが きょうすけ)といいます」


 うっかり見惚れてたんで、発言の内容はアホっぽい。
 反応しにくかったコメントだろうに、自己紹介するくらいの余裕は残っている。よかったと思うものの。

 会話の糸口が見つからない。

 案の定、雑賀クンは釈然としない面持ちだった。くるりと遥香の方に振り向く。


「桜沢さん。僕、どんな噂になってるんです?」

「さぁー? あんた、何かやらかしたの?」


 わたしの知らない内に、なんかしたんじゃないでしょうね?


 などという、疑り深い視線にも「いえ、心当たりはないです」と律儀に答えてる。


 いやいや。ごめんよ。
 違うんだよ。


 どっちかっていうとね、『遥香』の助手ってことで噂されてたんだよ。

 研究室の責任者になってから、彼女の助手は長続きしないジンクスがあってね。