あんな金にもならない、古い文献を漁るだけのオカルト史なんて、どうしてそんな評価に繋がるのか不思議でならない。


「知らない? 彼女、大学の講師してるんだよ。そこで卒論の添削指導もしててさ。わりと好評らしいよ。あの若さで新米研究者を育成してるなんて、長いスパンで考えると魅力的なんだって」


 そのことなら、知ってる。
 以前、私が彼女に押しつけた仕事だ。
 忘れもしない。件の中澤が持ってきた話なのだ。


 講師なんて、給料は安いわりに時間を拘束される。
 助手の仕事も、上司と自分の研究だけで手一杯。やりたがる人間は少ない。
 いろいろ適当な理由をつけて逃げたら、勝手に彼女が引き受けてくれたのだ。


 研究所の男たちに「嫌な顔しないで調べてくれる」と評されることはある。
 調子に乗って、他にもいろいろ仕事を押しつけてしまった。


 けど、こんなことになるならやっておけばよかった!

 あの女、本当に目障りだわ。

 いつもいつも周りをうろちょろしてて、私の邪魔ばかり!


 ぎりぎりと歯ぎしりしたくなる。
 言いようのない怒りに目眩さえ感じそうなほど。