まぁ、出来の悪い同期がいると、助かるけどね。
 比較されて、私の評価が上がるだけだし。


 などと、ふたりの会話をぼんやり聞いていると、


「君は……?」


 あの女を背負っている人が気になった。

 にこりと微笑む端正な顔立ちで、初対面の新人だとわかる。
 第五研究所に、こんなハイレベルの男なんていないはず。


「初めまして。12号研究室で助手をしております。雑賀です」

「へぇ、君が桜沢さんの……」

「これから、どうぞよろしくお願いします」

 唸る恋人にも、きっちり頭を下げた。

 律儀に挨拶する姿に、好奇心をかき立てられる。
 あの爆発娘の新しい助手か。

 可哀想に、と哀れんだ視線を送ってしまう。
 いつ尻尾まいて逃げるか賭けの対象になっているとも知らないで。


 残念。顔は、とってもタイプなのに。


「それでは失礼します」


 挨拶もそこそこに新米の助手は軽く会釈した。
 背を向けるなり、さっさと歩き去ってしまう。


 夜も遅いし、長居する理由もないけれど。


 エントランスを横切り、研究所を出るふたりの会話は、どこか親しげだ。