加納セクター長のことは気にならないわけではないが、彼女以外にも残念なプライベートが隠されている気がしたし。


 さっさと諦めた方が吉と判断したまで。
 決して、高嶺の花だと諦めたわけじゃない。


 実際に、その判断は間違っていない。
 私の人生設計の障害にはならなかったし、注意を払うべき相手は他にいる。







「あれ……井上さん、どうしたの?」


 恋人の告げた名前に感覚が鋭敏になる。


 実験棟より現れた人影に、目を奪われた。
 顔見知りの同僚が、何故か背負われての帰宅らしい。


「ちょっと実験で……」


 言い淀む女の仕草に自然と皺が寄る。



 井上 真矢。

 この研究所で一番、目障りな女。


 東洋オカルト史の専門家だか知らないが、ことあるごとに私の邪魔ばかりしてくる。
 ちょっと男性研究員に人気があるからって、調子に乗ってるみたいだ。


「まさか、中澤さんの?」

「い、いえッ! 遥香の実験で、手違いが起きたんですよ」


 ……なんだ、とばっちり?
 顔に似合わず、どんくさい娘ね。