それくらい、今の現状酔っている。
当然か。描いた理想通りの未来が手に入ろうとしているのだから。
「やぁ、待った?」
背後からの聞き慣れた声に、とびきりの笑顔で振り向く。
「ううん。今、きたところよ」
「悪い。実は、さっき停電が起きてさ。原因が不明で……困ったよ。
加納セクター長が実験中のトラブルだって報告がなきゃ、いまだに調べてたかも」
何か知ってる?
素朴な疑問を投げかけてくる恋人には、曖昧に笑って返答をごまかす。
内心、苦々しい現実をわざわざ口にすることもない。
彼が気付いてないとは思えないが、関わりを避けた方が無難だ。
第七セクターは、奇人変人くせ者揃いだ。
またおかしな実験を始めたんだろうな。
特に、12号研究室の桜沢 遥香は悪名高い。
ま、祖父の七光りにしても私のテリトリーには干渉して来ないから、どうでもいい相手ではある。
第七セクター長も不憫なことだ。
美人とはいえ、七歳下の小娘に追いかけ回されるとは。
容貌も才能も、人徳にも恵まれた男性なのに、三十六にもなって結婚していない原因は、桜沢のせいだと睨んでいる。