たぶん、からかわれてるんだろうと思って。
ばしばしと肩を叩きそうな勢いに、雑賀クンは少し戸惑ってる。
「あの……お世辞だと思ってます?」
「惜しい。冗談だと思ってました」
「僕、かなり本気なんですけど」
「他の女の子に本気になりなさーい」
酔っ払いのように軽く受け流す。
実際にどうこうするのが面倒ってわけじゃなくて、今、こうしてるのが楽しい。
だから、このままがいいっていう意思表示。
伝わらなくていい。
本当のことなんて、何ひとつ。
振り返った彼が、思い煩うことのないように。
どうとでも取れるような逃げ道を用意して。
胸の中にある気持ちに重石をつけて沈めたら。
雑賀クンは、改まった口調で仕切り直してくる。
「……わかりました。これからは井上さんに信じてもらえるように、もっとはっきり伝えることにします」
「? 何を?」
想像とは違う彼の反応に、深く考えずに訊ねてしまう。
私は、この直後に後悔する。
逃げたかったのなら、最初から全力で逃げるべきだった。