突然の謝罪に雑賀クンは戸惑って、肩越しに振り返る。
 その視線を受け止めることができず、目を伏せた。


「黙ってて、ごめんね。もう、わかったでしょ。遥香の研究室って、いつもこうなの。だから、あの……嫌になったでしょ?」


 遥香の周囲は常にドタバタしてる。
 私や将生たちは腐れ縁だと思って諦められるけど、他のひとは耐えきれないだろう。


 知っていたのに、伝えなかった。
 それは、雑賀クンじゃなくて自分のため。


 自らの浅ましい選択を告白して謝罪する。
 訪れるであろう別れに悔いを残さないように。


(……結局、自分のためじゃん)


 つくづく、独りよがりな言動に嫌気がさした時、
 くすりと笑う声が聞こえてくる。



「いえ、楽しい職場です。できれば、ずっとここで研究を続けたいですね」


 楽しげに弾む口調。
 思ってもみない雑賀クンの答えに、つい身を乗り出してしまう。



「ほ、本気で言ってる?」

「はい。前にいた第四研究所は、ここより……なんて言うか、固くて」

「固い?」