漆黒の中に、ポッと雑賀クンの顔が浮かび上がった。
 人形のような整えられた顔は、ほのかな明かりで一層、際立つ。

 ゆっくりとした動作で火をつけたマッチを蝋燭に近付ける。

 光の灯ったそれを、悠真クンの目の前に置く。
 蝋燭の炎が姿見の鏡に映る。揺らぐ明かりは、捉えた景色とは違うものを宿していた。


 鏡に映る、悠真クンの輪郭がぐにゃりと歪む。


「……ノウマク·サンマンダ·ボダナン·バク」


「罪といふ罪は在らじと、祓へ給ひ清め給うふ事を、天つ神、国つ神八百万神等共に聞こし食せともうす日す……」


 セクター長と雑賀クンがそれぞれ、邪気祓いの真言やら祝詞を唱える。


 ぞぞぞ、と何か這いずるような音がする。
 忘れかけていた悪寒がぶり返す。


 連中、待ってましたとばかりに動き出したみたいね。
 他の気配を感じたらしい玲奈が身を寄せてくる。


「遥香さんは、何をするつもりなんでしょう」

「……たぶん、悠真クンに魔素を集中させるつもりね」