きっと彼の沸点は、とっくに越えてる。
 押し黙った無表情は相当、腹に据えかねてるんでしょうね。

 でも、文句すら言えない。
 彼女の計画を実行するよう頼んだのは悠真クン自身だから。


 遥香サンったら、どこまで計算してるんだか。
 子供の頃から、ああやって悠真クンを餌食に遊んでたってこと?


 ……もう、哀れどころのレベルじゃないわね。
 悠真クンは前世で遥香の恨みでも買ったんだろうか。


「桜沢さん。コンプレッサーと測定器のセット、完了しました」

「お。サンキュー」


 説明している間に雑賀クンが準備を整えてくれたらしい。

 ふと気がつくと、セクター長が私と玲奈の足元に、円を描いた周囲に梵字を書き連ねている。


「三城さんと井上さんは、そこから出ないでね。結界というより、気配を消す類の術式だから」


 と、言うなり、さっさと悠真クンたちの方へ戻ってしまった。
 残された私と玲奈は顔を見合わせるしかない。



「それじゃ、頼んだわよッ。雑賀」


 遥香の指示の下、雑賀クンは黙々と作業する。
 いくつか小道具を準備し、部屋の隅に置かれた姿見を引っ張り出してきた。