こうして康介はこの寂れた診療所で「何でも先生」になった…


ここを開けてからは 長い休みなどとったことなどなかった。

寝る間も無く働いた。
それは
金にもならない仕事が、多かったが、

康介はここで、働けることに 満足して感謝していた。

自分もかつてそうしてきたように 体が持つ限り ここで 「医師」を真っ当したいと 思う。

康介が、ここを 任されてから 約一年後…

「老医師」は亡くなった。康介にその一年で、ここで働くことが どういう事かを、教えてくれた。

ある朝 康介は いつもどおり 出勤した。

老医師は、いつものイスに座っていた。

「先生、はえーな。年寄りだからねむれねーんだろう」

康介のいつもの ふざけた絡みに 食いついてこなかった。

それどころか ピクリともしない。

「?先生…」

康介は 彼の所定の位置へ向かう。


イスに座ったまま、 既に息を引き取っていた…。


「先生…」


康介は、泣き崩れた。

老医師の葬儀は、いわゆる密葬だった。

一人の50歳くらいの女が やってきた。

彼の娘だと 名乗った。
彼女は 康介に 深く お礼をした。

「父がお世話になりました。このように、自由に生きて来た父ですから…私達は、あまり 幸せではなかった… でも 父は 幸せだったのでしょうね…。連絡も寄越さなかった父が、 あなたが来てから、電話を寄越したんです。やめようと思ったが、まだ やらなきゃならないことがあるからと そう言ってました」

密葬にも関わらず たくさんの人が 弔問に訪れた。


康介は 家族のはからいで、親族席に座らせてもらっていた。


「先生…見えるか。こんなにたくさん先生を必要な人が居たんだぞ」

康介は 遺影を振り返る。

こんなに 人の 生き死にで 悲しくなるのは 僚介の時以来だった…

そして、明日からは 自分が あの診療所を 開けて行くのだと 固く心に誓った。