(いた…)

「…マ…マネージャー…」

息切らしながら声をかける。
ビックリした顔が振り向く。
ゆっくりと大きく息を吐いて、ノロノロ…と近づいた。

「…まだいたのか⁉︎ 」

目を丸くしたまま呟く。
その彼に向かって、コクン…と小さく頷いた。

「お…お聞きしたことが…あって…」

息も切れ切れに声を出す。
口の中が乾く。
緊張と戸惑いで、うまく言葉が出てこない。


「…今…下で…外商部の友達から…聞いたんですけど……マネージャーは……紗世ちゃんと呑み歩いたりした事…あるんですか⁉︎ …」

人妻でもあり子供の母親でもある女性と飲み歩く。
それは、ある意味、裏切りと同じ。
その先があっても無くても、私にとっては同じことーーー

「…俺が紗世と飲み歩き⁉︎ …なんで⁉︎」

呆れたように聞き返された。
ホッとする反面、浮かんでくる疑問。

「だったら…どうして紗世ちゃんだけ呼び捨てにするんです⁉︎ …何か特別なご関係ですか…?」

呼び捨てる理由は分かってる筈なのに、問い詰める様な言い方をしてしまった。
許せないのは自分自身の過去で、現在の彼じゃないのに……。

「特別とは思わないけど…。ただの部下と上司だから…」

ますます困惑される。
質問してる自分がバカみたいに思えてくる。
こんな事を確かめて、私は一体、何をしたかったのか…。


「…し…失礼なこと聞いて…すみませんでした…!」