「結衣…」

優しい声で呼ばないで。
そんな声で呼ばれるとダメ。

自分が崩れる。
仮面が剥がれる。

見せないでおきたい自分が…
隠せなくなる…。


「…お願いです…もう、放っといて…!」

精一杯の意地だから。
これ以上は譲るものないから。

そっとしといて。
私の気持ちを眠らせといて。

あなたが…
好きだから…
背負わせたくない…

私の…

荷物を……


震える唇をぎゅっと噛んだ。
痛いくらい噛んでないと、涙が溢れる。
厳しそうな彼の顔が落ち込んでいく。
それを見るのも、たまらない…。


「…フロアに…戻ります…」

壁を手で押す。
背中を浮かせた瞬間…


「は……っ!」

目の前にいる人が苦しみだした。
驚いて目を見開く。

(えっ…⁉︎ 何…⁉︎ どうしたの…⁉︎ )

胸を押さえてる。
何⁉︎ 心臓発作…⁉︎

「マネージャー⁉︎ どうしたの⁉︎ …ヤダ!何なの…⁉︎ 」

苦しそうに呼吸が乱れる。
思わず肩を抱く。

いけない!このままじゃ…!
誰かを呼ばないと…!

「ま、待ってて…!すぐに誰かを呼んできます…!!」

折れた膝を伸ばした。
立ち上がろうとする私を彼の手が押さえる。

「…待て…平気だから…」

服の中から取り出す薬?
口の中に押し込んだ。

「このまま横になってれば…すぐ治まる…」

ドキドキする心臓の鼓動が早まったまま。
何が目の前で起きたのかも分からない。