あの年頃には、私も同じように親に接してたんだろうか…。

(してたかも…。名前を呼ばれるのですら、イヤだったから…)

同性の母に対しては、特にヒドかった。
…泰にとっては、異性の母か私しかいない。

(この家に同性の父親がいたら、あの子のいい中和剤になるのかな…)

いない者をアテにはできない。
『頼れ!』と言ってくれた人はいたけど、頼れない。
何もかも、八方塞がり…。

(こんなんで仕事辞めて…大丈夫?…私……)

泰が登校拒否になる前に、自分の方が倒れてしまいそう。
気弱になってばかりいる。
あの子の気持ちや考えが、私にはまるで分からない。


「…きまーす!」

行ってきますの略語が聞こえた。
いつも以上に早く出る。
これも私を避けてる証拠?

「泰…!」

玄関口まで走って行った。
背中を見送る我が子に、伝えられる思いがあるとしたら、この一言しかない。

「行ってらっしゃい!気をつけてね!」

ちらり…と振り返る。
そんな子に手を振って微笑んだ。

(…大丈夫!何があっても、私はここに居て、あなたの一番の味方になるから!)

ガッツポーズをするような気持ちでいた。
帰って来るまでには家に戻って、この玄関口であの子のことを迎えてやりたい。
子供の頃、母が私にしてくれたのと同じように。

駆けて行く背中にエールを送る。

「ファイト…!」

(負けないで!イヤな時は声を張って!逃げたい時は逃げて!…どんな時も私は、泰の味方でいるから…!)