いつだったか、3人で「ローレライ」を検索した時にヒットした、ドイツの詩人ハイネの詩。

ライン河の断崖絶壁から、美しい声で、ハイネの詩を歌う綺麗な女の人が、みるみる半人半鳥の怪物に変身して、舟を沈めていく夢。

恐ろしさで飛び起きると、俺は汗だくで、そっとベッドを降りてシャワーを浴びた。

――ローレライ


詩月さんの楽譜に、赤字で隙間なく書かれた文字が浮かんだ。

あんな恐ろしい怪物「ローレライ」って、呼ばれる詩月さんの演奏。

ポスターから溢れている詩月さんのオーラと演奏姿。

「ローレライ」とは結びつかないのに、恐ろしさで体が震えていた。

恐ろしい夢の余韻を振り切るように、朝からのスケジュールを次々こなす。

桃香さんは、いつも通り振る舞ってはいるけれど、どこかギスギスして見える。

仕事先へ移動する車の中。
桃香さんのスマホが、着信音を何回も鳴らしていた。