あの男は…。

私は計算外の乱入者に目を見張った。

戦乙女の傍らに常に存在していたという参謀、側近、護衛にして最強の槍使い。

『紅』。

戦場を疾風の如く駆け、竜巻の如き槍捌きで敵軍を次々と殲滅するその戦いぶりから、ついた二つ名が『紅の旋風』、または『魔風』。

…先程のスケルトンの軍勢を蹴散らす閃光と見紛うほどの槍術を見るに、その二つ名に偽り無しなのは理解できた。

或いは、戦場では乙女以上に強さを発揮するかも知れぬ英雄。

乙女の存在を知っているのだ。

私とて紅の存在は知っていた。

だが、召喚に選んだのは乙女の方だった。

紅は風の二つ名通り、その気性も掴み所がなく奔放。

例え相手が王だろうと皇帝だろうと意にそぐわなければ従わぬ、癖のある男だ。

それ故に私はこの男は御しきれぬと判断し、召喚はしなかった。

だというのに。

「くっ…」

私は遠く離れた位置に立つ四門メグの姿を睨む。

あの女…私と同等の召喚術を成功させただけでなく、私には御しきれないと思われた紅を己の制御下に置いたというのか…!

唯一デッドゲイトの魔女をも上回っていたと思っていた召喚魔法さえあっさりと超えられ、私は屈辱に唇を噛んだ。