やっと視界の戻った私の目の前に、一人の男が立っていた。

長身、黒の短髪。

浅黒い肌で、細身でありながらその体は無駄なく鍛え上げられており、名工によって打ち上げられた名剣の如き印象を与える。

戦いの為だけに磨き上げられたその肉体を包むのは、真紅の外套。

騎士でありながら身を守る甲冑を一切纏わないというのは、この男の自信の表れなのだろう。

代わりに彼を守るのは、物々しい装飾を施された黒き槍。

相当な業物でありながら、乙女の持つ剣のような美術品の如き鮮烈な印象は与えない。

言うなれば『魔槍』。

魔女である私にさえ禍々しさを感じさせる、まるで呪い、怨念が込められているかのような槍であった。

そんな武具を扱いながら、この男に『影』は感じられない。

魔槍を得物としながら、尚魔槍に負ける事のない精神力で槍を屈服させる。

呪われていると思わせる魔槍でさえ、彼が強く誇り高き魂を持つ証のようでもあった。

…こんな男は古今東西を探してもそうはいまい。

私は自らの召喚魔法の成功を悟った。

彼が紅。

乙女の言っていた、劣勢をも覆すという加護の風。

味方には勝利を、敵には不吉を運んでくるという紅の旋風…!

「紅」

私は魔方陣の中央に立つその男に言った。

「力を貸して、お願い」

「断る」