男は黙ったまま、彼女の前髪を
分け、額に手を当てた。
そしてナイフでゆっくりと額に
傷を刻んだ。

痛みから抵抗する彼女を押さえ、
男は傷をつけた。

そして佐脇が嬉しそうに笑って
いるのを横目で確認し、ナイフを
床に投げ捨てると、震える彼女の
身体から手を離し、佐脇の方へ
振り返った。

「…逃げろ!!空」突然、部屋の
ドアが開き、若い男が現れた。
強い力で彼女の手を引いて、外へ
出ると部屋の鍵を閉めた。

彼女の肩を抱え、玄関まで降りて
彼女を外に連れ出した。
若い男は優しく彼女を抱きしめ、
頭を撫でた。

「大丈夫だ…親父もお袋も俺が
助けるから。お前は先に逃げろ…
お前は……生きるんだ」彼女の
身体から離れ、男は優しい笑みを
浮かべた。

「頑張るんだ…空」そう言って
男は再び家に戻った。

雨は雪に変わり、少しずつ地面
に積もっていた。

今年はホワイトクリスマスに
なるだろうと楽しげにニュース
キャスターが伝えていた。