もうさ。やめてよ。




「………湖鳥羽って呼ぶな。偽善者。」

どんだけやせ我慢しても。

どんだけ強がっても。


私は全然強くなってない。わかってる。

淳也に湖鳥羽って呼ばれるだけで胸がきゅぅってなる。
苦しいよって言うんだ。

「ほんっとさぁ、さいってぇーだよね。湖鳥羽ちゃんって。」

汎が吐き捨てるように言う。

「…湖鳥羽って呼ぶな。」


「自分の立場考えろよ。ブス。」
前からぶすぶす言う茜だけど、あれから言われる悪口は重みが違う。

「………消えろ。」

翔太のその冷たい一言が、教室の隅から青星を睨みつける私ののどを突き刺した。

「存在するだけで迷惑です。ほんと、翔太の言う通りです。


消えてくれませんか?」


なんで…!?なんでそんな事言うんだよ!

何もやってないのに!

「…消えろなんて……言わないでよ。(ボソッ)」

私の存在否定しないでよ。
苦しいじゃんか。

喉……苦しいよ。


何で……何でこんな状況で笑っていられるの?

「………叶㮈の方こそ消えればいいじゃん。」


私は叶㮈を睨みながらそう言い捨て、教室をでる。

叶㮈。恵まれてんじゃん。


私なんかと、全然違うじゃん!

誰もいない廊下をスタスタと歩く。
込み上げてくるイライラと情けなさを吐き出したくて、あの場所へ向かう。


きっと今頃、叶㮈が「私、萌ちゃんが心配だっただけなのに!」などとほざいてるだろう。

そして周りの奴等が「湖鳥羽ちゃん酷いよね!」「仕返ししようよ!」
なんて言いだすんだ。



確信犯じゃん。

もう慣れたよ。
自分が入った途端空気が凍るのも、
その刹那降りかかる冷たい視線も。




3階の美術準備室のドアを開ける。

「こんにちは。」



窓を見つめていたであろう彼が私の方へ少し首を捻る。

「……っ!」


やだ。やだ。溢れんな。
私の涙。早く引っ込めよ。

心の中で涙にあたるけど、やっぱりだめだって。
安心しちゃうんだもん。迷の顔。

「ふぇぇぇ…ひくっ………。」


未だ泣き続ける私の頬に、迷のあったかい手が触れる。

そして優しい笑顔でこう言った。






「お疲れ様。」






…迷の言葉には表現出来ないような優しさがあって。
私を包んでくれるようなあったかさがあって。
いつも私が欲しい言葉を届けてくれる。


ずるいよ。あんた。

この天然女たらし。ばか。あほ。


……ありがとう。


「…あだじさいてぃなのぉー!………光樹にもごごろのながでやづあだりじでぇー!
みんなにめいわぐがげてぇー!……さいでぃなのぉぉー!」

迷は、唯私の横にいて話を消えてくれる。



「光樹って?」

優しい返事。

「…………おとーと。」



「…wingは。その子が嫌いなの?」

「…………だいすきぃぃ!」

光樹大好き。大嫌いなんて嘘。大好き。

光樹が家族とってっちゃっても。
光樹が私よりも愛されてても。
なにより光樹が愛しい。


「光樹、何も悪くない。
私が弱いの。…でも今は話せないんだ。

壁が分厚すぎて固すぎて。たどり着けないから。」

もう、嫌いなんて言わないよ。

もうずっと。大好きだよ。


そんで、自分の壁は自分で乗り越えるから。

「待ってて。私、絶対迷にも光樹にも、そんで他のみんなにもたどり着いてみせる。」


「…そっか。頑張れ。」

私よりも低くて、男の子って感じの声が私の心に染み渡る。

ちょっとずつ。ちょっとずつ。
歩み寄っていくよ。


きっと、気づかないうちに追い越しちゃってたりするだろうね。

そんときは追いかけてきてよ。





みんな。並んで歩こう。