やっぱり間違いないと確信して声のありかを探し始める。

「こっちこっち。」



右側から声がするのでおそるおそる本棚の奥を覗く。

「こんにちは。」


「うわっ!」

覗いた先。鼻と鼻が触れ合うぐらい近くに端麗な顔が…。

その場で固まっていると、そのお綺麗な人が本棚を回って私の隣についた。

そして、ニコッと笑ってこう言った。


「こんにちは槇原湖鳥羽さん。僕は迷(めい)だよ。」

なんだこいつ。

「変な名前。本名はなんなの?」

聞きかけたところで思い切り口を塞がれた。

「…っ!?」


力…強い!

それから彼はパッと手を離して笑顔で
「僕、自分の名前嫌いなんだよね。その話題は出さないでくれるかな?」
と言った。
彼の声色に苛立ちが見える。

「…ごめん、もう聞かない。迷って呼んでいい?」

「うん、よろしくね。湖鳥羽さん。」

…。

「やだ。」

「え。」

やだ。何かやだ。
「私もあだ名がいい。壁あるみたいでやだ。」

やだ。やだ。やっぱりやだ。
もう人は信用しないって思ってたけど、さん付けなんて最初から「お前は信用しない」って言われてるみたいで苦しいもん。
我儘だけど、そう思っちゃうんだもん。


「…ふふっ。可愛いこと言うね。」

「か、かわっ!?」

可愛いって言った!この人!
「可愛いよ。…じゃあ、こう呼ぼうか。
………蓮見紫苑(はすみしおん)さん。」


「……!?」
なんで…!

「なんで……あなたがその名前を知ってるの…。」

怒りを精一杯噛み殺して尋ねる。
その名前は…その名前は……。

「なんでって。蓮見財閥の蓮見紫苑さんでしょ?僕、そういうの興味あったから調べたんだ。」

くそっ!こんな所に漏れてるなんて…。



「私も迷と一緒。その名前は嫌いなの。だからあだ名を付けて欲しい。」

「んー、そっかそっかぁ。僕もそういうことになってるもんね。いいよ、つけてあげる。」

取り敢えず話題はそれた。
「…じゃあ。wing(ウィング)なんてどう?」

wing…wing……。

「いい…。」
大好きな…翼。
空を飛べる翼が欲しい。
そう思った。だからこの名前にしたの。

「そりゃよかった。」