「……氷は?」


 流石にこの一言には、私も怒り狂いそうになった。私はあんたの専属家政婦か何かか、とか何とか。喉元まで出かかった言葉を間一髪で呑み込み、一度深呼吸。

 半端に溶けた氷の入ったグラスをその手から受け取り、また立ち上がる。ここまでしたら、もう寝てやる。眠れなくても、狸寝入りを通してやる。そんな気持ちで。


 冷凍庫を開けて、まだ凍りきっていない水を零さないよう、製氷皿を取る。爪を引っ掛けるようにして、しっかり凍ったいくつかを取り、グラスに落とした。

 半分程氷で埋まったグラスを掴み、少々うるさいくらいの音を立て、麦茶のとなりに置いた。注ぐくらい、いい加減自分でやってくれ。

 さて寝ようかと、漸くソファに腰を落ち着けると、彼が私の名前を呼んだ。


「……もう少しで雨、止みそうだからさ」


 降ろそうとした瞼を諦め、その顔を見る。なんて憎たらしい、なんて狡い笑顔。つい絆されて、気温か体温か知れないけれど、温かくなる。


「アイス、買ってくるよ」


 何がいい、と尋ねる声に、バニラアイスと答えながら、私は麦茶のボトルを手に取っていた。


 こんな小さな幸せ、溜息なんかに混じっても、逃げられっこない。