溜息を吐くと、幸せが逃げる。そんなことを最初に言い出したのは、誰なのだろう。


「そんなの知るワケないだろ。それよりほら、もう麦茶のボトル空っぽ」


 ……頭が痛い。その原因が、現在日本を覆っている低気圧なのか、はたまた彼の台詞なのかは、考えない方がよさそうだ。

 身じろぎひとつしない、蛍光灯の紐に付けられたマスコット。それをぼんやり見つめながら、私は本日何度目とも知れない溜息を吐いた。


 ローテーブルに載ったボトルを手にし、キッチンに向かう。部屋との間にはろくな仕切りもなく、距離としては目と鼻の先。それがここまで遠く感じるのは、ひとえに私の気分の問題だ。


「あんま眉間にシワ寄せんなよ。老けて見える」


 全く、自分自身は一歩も動かず人を使っておきながら、この言い様。

 いや、眉を顰めていた直接の理由は、あくまでも頭痛だ。それこそ、頭痛が痛いなんて言い出しそうなくらいには、酷くなっている。勿論彼は、そんなことお構いなしなのだけど。


 やかんから直接汲んだ麦茶は、当然冷えていない。熱いとまではいかないけれど、体を冷やすよりは、温めそうな温度。

 しかしそんなの、私の知ったことではない。ある種の怒りを乗せて、ぬるい麦茶がなみなみ入ったボトルを、ローテーブルに置いた。