「今日は部活は?」

「…ありません」

「そう。じゃあどこか寄って帰りましょう」


彼女はクルリと体の向きをかえて、下駄箱の方に向かおうとした。


「……あの」

「なあに?」


またクルリと、こちらを向いた。

誰もが認める美人とあって、一瞬ドキッとしてしまった。


「どうしたの?あなた、顔が赤いわ」

「いや、あの…。僕らって付き合ってるふりなんじゃないですか。別に、困った時だけすればいいだけで、そんな一緒に帰るとかする必要ってありますかね」


内心、自分何いってんだ、と思う。

そんなこと言ったら、僕が彼女を嫌ってる風になってしまうじゃないか。

言葉の選択を間違えた、なんて後悔した。


「別に、毎日一緒に帰るわけじゃないわ。
今日は何となく。あなたが一人でいたから誘っただけ。…ダメかしら」


彼女は、珍しく表に出てしまった感情を隠す為か、俯いた。


「…ダメ、ではないんですけれども」

「良かった。じゃあ……カフェでもいきましょう」


笑った。
税所は、はにかむような笑顔で、笑った。

思わず目を見開いて、改めて彼女をまじまじと見つめる。


「カフェでいいわよね」

「え、あ、はい。…あの、先輩」

「なに?」

「先輩、笑ったほうが、…可愛いと思います」

「…………」

「いや、あのその。本当に付き合ってる訳でもない男に言われても嬉しくないですよね。すいません」


ヘタレ。

僕のヘタレ。

ヘタレすぎて台詞が早口になってしまうのがまた情けない。


「…ありがとう」


税所は、無表情のまま言った。

そして、笑って、言った。


「私の笑顔も可愛いかもしれないけど、あなたの照れた顔の方が何百倍も可愛いわ」

「……嬉しくないんですけど」

「ふふっ」


僕は、好きでもない女の子の手と、今日初めて繋いで歩いた。