「横山くん。この間の返事はお考えになったかしら?」
ニセ恋人告白されてから、5日経った。
これまで僕は、彼女を懸命に避け続けていたが、トイレから出てきたところを捕まってしまった。
「………」
「返事は?」
「…………」
「そう、それはOKととっていいのね」
「すいませんごめんなさい。無視してごめんなさい」
その場からさろうとした彼女の肩を、咄嗟に引き留めた。
「…考えました。でも、なんとも思っていない男女がそんな関係になるのは…ちょっと理解し難いです」
「そう。あなた結構、正統派だったのね。
そういうところを私は認めていたんだけれど。どうしても駄目かしら」
「駄目とか、そんなんじゃなくて…。
不誠実な、曖昧な関係は嫌なんです。
僕だって、付き合うなら本当に好きな人が良いし、先輩だってそうじゃないんですか?」
彼女はため息をついた。
「私は迷惑なストーカーから自分の身を守るカムフラージュが欲しいだけ。
だからって誰でも良いわけではないのよ。
あなたの顔がタイプだったの」
「…は?」
「だから、カムフラージュが欲しいの」
「いやそこじゃなくて…。え?顔?」
「そう。顔」
「……顔で選んだんですか?」
「そうよ」
彼女は『何がおかしいの?』という顔をしている。
「あなたの顔がタイプだったから、あなたを選んだの。
それが理由じゃおかしいかしら?」
「………」
「やっぱりその辺のメスブタとかわらない、そんなこと考えていそうな顔ね。
まぁ厳密に言えば、容姿、学力、運動能力。それと友達がいないところに惹かれたのよ」
「…友達がいないってどういうことですかね?」
さすがに失敬だ。
腹立つ。
「同姓の友達が沢山いる人だと、後々めんどうでしょう。あんまり人気者だと、あなたを利用して私に近付こうとする輩も現れるかもしれないじゃない」
「…それは」
「そして、今のあなたの誠実なところにも惹かれたわ」
そして、税所は僕に手を差し出す。
僕は彼女を睨んだ。
最後の最後の、対抗心で。
「…先輩そこまで言って、僕のこと好きじゃないんですか?」
「好き、ではないわ。むしろ人として尊敬してる」
友達がいないところは除いてね、と彼女は言う。
僕はクスリとわらってしまう。
洋右とも違う。
他の異性とも違う。
「…良いですよ。その話、乗ります」
「フフフ、あなたいい顔してるわ。
強い顔」
不思議な感覚に、僕は溺れていく。