「ん?なんだい?」

「あ、あのどこかで会ったことありましたっけ…?」

「…………」

男性は訝しげに僕を見つめ続けている。

そして、ニコッと微笑んだ。

「…君は、野木丘学園の生徒だね?」

「え、ええ、はい」

「2年の税所亜樹って知ってるかい?」

「へ?あ、知ってます」

「そうかそうか、私はあの子の……何というか、保護者みたいなものだ。小さい頃から可愛がっている」

「…そう、なんですか」

「あの子はね、幼い頃に両親を無くしていて、行き場のない時に私が引き取ってやったんだ」

「…………」


そんな過去があったとは。

思いもよらなかった。


「さっきまでこの電車に乗ってたハズなんだが、見ていないか?」

「あ、さっきまで一緒に乗っていました」

「そうか。私は保護者と言っても、一緒に暮らしているわけではないんだ。
・・・・・・・・・・
可愛がっているだけでな」

「…では先輩は親戚の家に?」

「いや、年の離れた兄が一人いるみたいでね。そこで暮らしている」

「…へぇ」


≪六道大橋~六道大橋~
お降りの方は~左のお出口からご降車ください~≫

アナウンスが鳴り、僕は立ち上がった。

「ここで降りるのかい?」

「……ここ、終点なんで嫌でも降りなきゃいけないんですよね」

「おっと、そうか。じゃあ一緒に行こうか」


僕は男性と一緒に、電車から降りて駅のロータリーまで歩いた。