「おっとっと、危ない乗り遅れるところだった」
そう言って乗り込んできたのは、紳士を思わせる男性客だった。
また、プシューという音がして扉が閉まる。
「ガラガラ、じゃないか。ほぼ貸し切り状態だな」
「…………」
僕もいるんだけどな。
一応『ほぼ』とは言ってるけど、ちょっと傷つくぞ。
「…………」
「…………」
男性は何故か、僕の向かいの席に座った。
「…………」
「…………」
き、ききき気まずい……。
なんかずっとこっち見てるんだけど。
男性は、顎を引いて眉間にシワを寄せて、僕を見つめていた。
爪先から頭の頂点まで舐め回すように見入られている。
「あ、あの」
思いきって、声をかけてみた。