「あのねぇ、あなたにも利益がある話をしているの。聞きなさい」
「嫌です。僕、今現在ホームシックなんですよ」
「黙れ。話を聞け」
「あい」
僕は大人しく彼女の隣に座った。
「それで、あたしと交際しているふりをしてほしいのだけれど」
「ふり、ですか…」
「そう。ふりよ、悪魔でも。
恋人の、ふり。なあに?残念そうね。本物の恋人の方がよかった?」
「イエイエ、滅相もござぁせん」
「なんかムカつくわ」
眉間にシワを寄せた彼女は、スゲー恐かった。思わず体がのけ反った。
「それで、ふりをしてほしいのだけれど」
「何か目的があるんですよね。
さっき僕にも利益が得られると言っていましたし」
「そうよ」
「それは何ですか?」
「あなたは毎日の親衛隊達のお出迎えや、差し入れを押し付ける態度に苛立ちを覚えている。
違いますか?」
「違いません」
「あたしも親衛隊のいきすぎた活動に引いている。そしてストーカー被害にも逢っている。
違いますか?」
「ちが…わないと思います」
いや、だって他人のことじゃん?
真実かどうかなんてわかりっこないじゃん?
この人に本当に親衛隊なんてものがいるかどうかも、定かではない。
「そこで、学園1の美女と、学園1…かもしれない男子が」
「かもしれないってなんですか」
別に1という自信があるわけではないが。
「男子が付き合ったら、どうなるとおもう?」
「そりゃ……、親衛隊とか、好意を持たれてる人に批判されますね」
「そう。それよ。
しかもお互いに、同姓に嫌われてるみたいだしね」
「そうですね」
こんなことを自信満々で言えることを、心の中で泣きたくなってくる。
「でも、そんなことなら付き合うなんてやめたほうがいいと思いますけど…」
「そうね。確かにそうだわ。
しかし、あなたとあたしが交際することで、親衛隊からの活動は減ると思わない?
『やっぱりこいつも顔で相手選んでたのか。こんなバカ男(もしくはアバズレ女)の相手してるのなんて時間のムダだ』」
「『こいつの為に貢ぐのはやめよう』となるわけですね!」
「そう!」
「じゃあ、僕たち付き合っちゃいましょうかなんてなるかボケェ!!」
「えっ」
何驚いてんだこいつ!
「なるわけないでしょう!?
バカ男とか思われたくないわァ!つーかあんたもアバズレ女でいいんですか!?」
「嫌よ」
「自分で言ったくせに!?」
なんだこの状況は。
いつもボケ担当なのに、ツッコミに回ってしまったわ。
ツッコミとか初めてだけど、めっちゃ疲れたわ。
≪野木丘大学前~野木丘大学前~
お降りのかたは~右のお出口からご降車下さい~≫
アナウンスが鳴った。
「まっ、明日までに考えといてね。
じゃああたしはここで降りるわ。
じゃあね」
「えっ、ちょ、待って…」
シュー、という音がして扉が閉じた。