戻ってきた私はあまりの驚きに手にしていたマグカップをうっかり落としてしまう

”ガシャーン”けたたましい音をさせて割れたお気に入りのマグカップ。

何故ならそれは……

皆と飲み会に参加している筈の中村課長が私のデスクに座り読み掛けのロマンス小説を読んで居たから……

「中村課長、何をされているんですか?」

今更でも弱みを見せたくなくていつもの能面顔を試みるけど多分私の顔は真っ赤に違いない。

「大園さんを迎えに来た、皆と飲むのが嫌だったら二人だけでどうかと思って……

でもお楽しみの最中だったみたいで悪かったね」

クスッと笑ってお楽しみ最中と言う中村課長の顔がいつも見せているゆる~い笑顔とは程遠くて、含みのある笑顔は傲慢ヒーローそのもので癪に障る。

「折角戻って下さったのに申し訳ありませんが、私は飲み会に参加するつもりはありません」

「これから噂の重役さんと密会かな?」

『なんでこの人に弄ばれないといけない訳?』

割れたマグカップの破片を拾い集めながら、別にどうでも良い事のように……
初めて弁明を口にした瞬間だった。

「私は弊社重役の愛人ではありませんし、他社の役員の愛人になった事もありません。

セフレもいませんし二股とか、三股とかは噂でしかありません。

だって私、バージンですから

これで満足して帰ってくださいませんか?イタッ……」

やっぱり課長の言葉にも腹が立っていたのかな?

つい乱暴に破片を拾ってしまったから指を切ってしまった。

デスクにはあるティッシュを取ろうとしたら、指を切った方の手首を掴まれた。