「オカンの病院で
初めてその妖精を見た時
かなり焦ったよ!」


「けど、毎日来るもんだから
すっかり情が移っちゃって」


嘩純くんは、整った顔を
クシャッとさせて笑った。




「なあ、月ノ瀬
俺じゃやっぱダメかな?」



『……えっ?』



突然聞かれて、驚いた。


ううん…突然じゃない…


嘩純くんはずっと
私の返事を待っててくれたんだ。




ちゃんと話さなきゃ。



『嘩純くん…私…』



言い出せないでいると

嘩純くんは穏やかな口調で
話し始めた。



「あのさ…俺、何となく
ダメなんだなって思ってた」


「だから、気にしなくていいから!」


「ハッキリさせとかないと
月ノ瀬も辛いと思って!」



『……嘩純くん』



こんな時まで、優しい。



「俺もスッキリしたし
バレーに専念するよ!」



そう言うと、嘩純くんは
右手の親指をグッと立てた。


「入学してすぐくらい
だったかな?教室の机に
制服を忘れたことがあってさ」


「教室に取りに戻ると
俺が脱ぎ捨てた制服を
畳んでくれてる子がいたんだ」


「あれ、月ノ瀬だよね?」



『……えっ!?』


『嘩純くん…知ってたの?』



「うん!実は廊下で見てた」


「誰も居ない教室で一人
制服を畳んでる姿が可愛くてさ」


『そ、そうだったんだ
シワになったら困るなって
つい勝手に…』


「うん、サンキュー
すげー嬉しかったよ!」


「俺んとこ、オカンがあんなだし
家庭的な感じに弱いんだよね」



嘩純くんは照れくさそうに
そう言った。


明るくて、前向きな
嘩純くんだって

家庭的な温もりが
恋しいって思う時も

あるんだよね。


ごめんね…
気づいてあげれなかった。


「見えないところで
気配りできる月ノ瀬が
好きだよ」


「色々ありがと!
じゃあ、俺、部活に戻るよ」


『…嘩純くん…私の方こそ
ほんとに…ありがと…うっ』


「!?…泣くなよ
大丈夫か?」


『…うっ…うんっ…うん』



「そっか、じゃあまたな!」