「ちょっとは後ろめたさとか罪悪感とかもあるけどー、やっぱり私紅子ちゃんのこと大っ嫌いだったし……」

「それ、人としてどうなんだ」

「っていうか、じゃんけんするだけで嫌いな人を殺せるなんてすごくない!? 私、もっとやってみたいなー!」

 菜々未のその言葉に、俺は驚愕した。

「やってみたいって……お前……」

 自分の妹に、少し恐怖を感じた。
 その妹の輝いている瞳の奥に、何かが取り付いているようで。


「そうだ、あの鏡廊下に置いておくよ!」

 あの鏡とは、一人じゃんけんに使われた全身鏡のことだろう。


「お兄ちゃんも使えるように」


 ――ドクンッ

 俺が?
 人を殺す?
 そんなことしない。

 そうさ、するわけない――。


 そう思った。
 だけど何故か、口に出して否定することは出来なかった。

 廊下の隅っこに置かれた全身鏡が、不気味に光を反射していた。