「菜々未の家に来る度に、優斗さんに会うのがとても楽しみで……顔を見られるだけで良かったんです」


 なんて健気なんだっ!

 唯にこのおしとやかさが一粒でもあれば、俺はこんな決断を迫られることはなかったはずなのに。

「いつも菜々未に、気持ちだけでも伝えなさいって言われてて、でもなかなか言えなくて……今日は言えて、すっきりしました」

 彼女は恥ずかしげに頭を下げた。


「いや俺こそ……ありがとう」


 何に対してのお礼か、自分でもよく分からなかったが呟いた。

 何だか、「ありがとう」という言葉を久しぶりに言った気がした。


「じゃあ……送って下さり、ありがとうございましたっ」


 彼女は、俺に背を向けてマンションの中へ消えていった。


 彼女が居なくなると、急に痛みが体中に戻ってきたような感覚に襲われたので、さっさと家に帰った。

 途中で知らない男に襲われるようなことはなかった。



 そういえばあの男達は、唯の知り合いなのか?
 唯という名前の人間は無数に居るだろうが……。

 そこがかなり気になっていた。