「あ、ここでいいです。家そこなんで」

 彼女が指差した先には、何十年も前に建てられたようなマンションがあった。

「わぁー、えっと……趣があるなぁー……」

「あはは、ボロマンションですよ」

 俺の苦しい誉め言葉に笑って応える彼女に、ついつい苦笑する。

「はは……まあ、じゃあね」


 俺は軽く手を振って帰――




「あのっ…………」



「へ?」


 帰りかけた足をとめる。


「あっいえ……えと……」


 もじもじと言いにくそうな顔をしてる彼女。


 なんだろう?
 ……ズボンのチャックを確認してみる。

 良かった、閉まってる。

 なぜなら俺は小学校の時、似たような状況にあったことがある。

 その時かなりのナルシストだった俺は、告白されるのかと少し――いやかなり期待してた。
 しかしその子の口からでた言葉は「ズボンのチャック開いてるよ」だった。
 それから、ナルシストという自意識過剰の病からは逃れることができたのだが、あの恥ずかしさは尋常でない。

 だからもう告白とかそういうナルシスト発想はしないっていうか、この状況じゃあり得ない――






「優斗さんが好きです!」