「そろそろ帰ろぉー」

 日が傾いてきて、薄暗さが辺りを包む頃、唯がようやく言った。

「そうだな」

 やっと解放される!

 そんな思いが顔に出ていたのか、唯は眉をひそめ――



 チュッ



 ――俺にキスをした。


 注意、ここは人気のカフェである。
 人々の視線が集まる。


「てめっ……!」


「ふふーん、行くわよ」

 俺の様子なんか気にも止めず、足早に店を出ていく唯。

 俺も二人分の金を払って、店を出た。




 こんな些細な出来事が、大きな出来事になったりするんだと俺は知ることになる。




「あいつ……許せない……」