プルルルル……

 俺の携帯が鳴り始めたのは、菜々未が出ていってから間もない頃だった。


 誰だ……?


 そう思いながら携帯画面を見て、ぎょっとする。

 こいつ、何の用だよ……。

 取るのを躊躇いつつも、取らないと後で余計面倒臭いことになるので、通話ボタンを押して言った。


「もし」

『今どこに居るのよ!!』

 通話ボタンを押した矢先から、金切り声に俺の鼓膜が破られるところだった。


「……は? 家だけど」

『もう何時間経ってると思ってんのよ!?』

 電話の相手、唯が怒鳴るが、俺は意味が分からずきょとんとするばかり。


「は、何のこと……?」


 この言葉が唯の逆鱗に触れたらしい。


『映画!!』


 ――ブツッ!


 今度こそ鼓膜が破れたかと思うくらいの大声で叫んだかと思うと、唯は携帯をぶち切った。


 鼓膜の状態を確認しながら思考する。


 映画……映画…………。


 ――見たい映画があるの――

 ――明日一時、時計台の下ね――


「あっ……」

 思い出した。
 昨日の電話で約束されたんだっけ。

 夜中のこととさっきのことで、そんなことすっかり頭から抜け落ちていた。