「あ、ケータイ……」

 菜々未の携帯電話が鳴った。
 菜々未は画面に映る名前を確認してから、通話ボタンを押した。


「もしもし……朱羅?」

 相手は友達みたいだな。
 話の中にも出てきた覚えがある。


『もしもし、菜々未!?』

 俺にまで聞こえる馬鹿でかい声が、受話器から聞こえてきた。

「うん、どうしたの?」

 菜々未は落ち着いた、というゆり沈んだ声で聞く。
 電話の相手は興奮状態で、そんな菜々未の声の調子には気付かないようだ。


『テレビ見た!? 紅子ちゃんが!』

「見たよ……」

『あれってマジ!? 超ビビった!!』


 嘘ならいいんだけどな、と内心思った。


「だね、ごめん……今ちょっと忙しくて。切るね」

『え、菜々未? ちょ、菜々』


 ――プツッ


 菜々未は電話を切り、こちらへゆっくり振り向いた。

 一筋、涙の跡が頬にあって、ドキリとする。


「菜々未――」


「ごめん」


 そう言うと菜々未は、すっと俺の横を通り過ぎ、自分の部屋へふらふらと歩いていった。


「菜々未…………」


 俺はその後ろ姿を、じっと見つめることしか出来なかった。