「――どういうこと?」

 私は鏡の向こうに居る私に向かって聞いた。
 何となく、答えは予想がついた。

「やっつけたい人が居るから、こんなことしたんじゃないの?」



 ――やっぱり。


 私は静かに頷いた。

「僕負けちゃったから、君が憎んでる人の命を奪ってあげるよ。遠慮なく言って?」

 鏡の中の私が微笑む。

 ――怖い。
 怖い怖い怖い怖い怖い。

 自然と動悸が早くなるのを、鏡の中の私は敏感に感じ取る。

「そんなに恐がらなくても大丈夫だよ」


 余計に怖い。
 っていうか、命奪うとか言ってるし。
 何、やっつけるってそういうことなの?


「すっごく嫌いな人が居るんでしょう? 心の底から」


 鏡の中の私と目が合う。
 目が離せない……。


「大っ嫌いなその人が、居なくなったら嬉しくなぁい?」

 悪魔の誘惑。

 大嫌いな人が、居なくなったら――


 どんなに嬉しいだろう。


「うん、言って?」


「じゃあ、桐屋紅子ちゃん……」

 ぼんやりと、口から言葉が零れる。

「本当にそれでいい?」

「うん、いいの……」

 零れた言葉は、呪いという名の果てなき泥沼に溺れはじめる。


「分かったわ、じゃあね」


 一瞬、目の前がパッと白く明るくなったかと思うと、鏡に写る私はいつも通りに戻っていた。

 そう、いつも通りに……。