「ちょっと、菜々未の彼氏借りちゃった!」



 ちょっと?
 借りた?
 彼氏?


 私の中で、黒いものが渦巻く。


「菜々っ、未……」

 後ろから、私の後を追い走ってきたのぞみの声がした。


 借りた?
 ありえない……。
 ありえない…………!

「あっ――」

 のぞみが止める暇もなく、


 ――バシッ!


 私は紅子ちゃんの頬を力いっぱい叩いていた。
 私の手が、ヒリヒリするほど強く。



 周りの空気が一瞬凍り、皆呆然とした表情になった。

 そして、紅子ちゃんがはっと我に返り叫んだ。

「……い、いったぁーい!」

 紅子ちゃんが涙目になりながら叩かれた頬を手で覆う。

 そりゃあ痛かったでしょうね、渾身の怒りを込めてやったんだから。

 でも、私だって――痛いよ。


「おい菜々未、てめぇ何してんだよ!」


 幹ちゃんが私の肩を強く掴み揺さ振る。



「………は……の……?」


 小さな声で、呟く。


「あ?」


「幹ちゃんは、紅子ちゃんのほうが大切なの……?」


 何で、紅子ちゃんを庇うの……?

 そのとき私はどんな表情で幹ちゃんを見つめていたのだろう。
 紅子ちゃんもどんな表情で私を見ていたのだろう。


 幹ちゃんは、私を睨み付けた。