「馬鹿馬鹿しい。鏡の人って何だよ」

 そもそも、鏡に向かってやったら永遠にあいこだろ。

「私も最初そう思ったし、そんなのやる程じゃなかったし、そのまま寝たの」

「で、めでたしめでたし?」

「早い、まだあるもんっ!」

「分かってるよ」

 ちょっと冗談言ってみただけなのに……。


 菜々未は怒りを思い出したかのように、拳を握り締め再び話し出した。

「でも翌日、紅子ちゃんは私の彼氏と――」

「待て」


 コンマ一秒程の、沈黙。


「何よ」

「彼氏が居るなんて、聞いてねーぞ!」

「過保護な父親か」

 それ、自分で言ってて思った。
 ――じゃなくて!


「一々言わなくてもいいでしょ?」

 菜々未が口を尖らせる。

「でも――」

「じゃあお兄ちゃんは今、誰と付き合ってるの? どんな人と?」

 一瞬唯の存在を思い出し、胸にグサッときた。

 あいつを“彼女”とは呼びたくない。


「悪かったよ、早く話の続き話しろよ」

 話の続きを催促して、うまく誤魔化すことが出来た。