――それから
140年の歳月が流れたある夜のこと――…。





『キュア』


小窓から見える満月を眺めていた-癒しの魔女キュアウィッチ-は、自分を呼ぶ声に、かたく閉ざされた扉へと目をやった。


『誰…?』


キュアウィッチは、不安げな瞳で扉の向こうの人物へと声をかけた。


『僕は賞金首の盗賊さ。村の人達に頼まれて、君を助けに来た』


その言葉と共に、施錠されていたはずの扉がゆっくりと開いた。


『さあ、ここを出よう』

小窓からの月光に照されながら部屋へと入って来たのは、一人の美しい少年だった。


『いけません…。この砦の王である-竜の魔女ドラゴンウィッチ-は恐ろしい魔女なんです。見つかれば貴方が殺されてしまう…』


キュアウィッチは首を左右に振り、少年を制止する。


『そういうわけにはいかないよ。
もう、金は貰っているんだから。
それに…日の出までに君が村に現れなかった場合、村人たちが君を助ける為にこの砦に攻めてくるつもりらしいんだ』


『そんな…危険すぎます…!』


『だから、君は僕と逃げるしかないんだよ』


少年はそう言うなり、キュアウィッチの白い手を握り、部屋から連れ出した。


『大丈夫。こう見えても僕は世界を股にかける大盗賊だ。
こんな砦なんて朝飯前さ!』

少年の力強い言葉と手の温もりが、キュアウィッチの震えをしだいに笑顔へと変えてゆく。


通路を歩く数々の見張り兵の目をかわし、流れるように裏口から外へと二人は脱出した。


『もう少しだ、頑張れ!』


息を切らしているキュアウィッチへと少年が目をやった瞬間、何かが背後で蠢いた。


(…!?)


『あ〜ら、こんな時間にデートかしら〜?』


少年が弾かれるように振り返るのと同時に
やけに色っぽい女の声が闇夜に響いた。