『フフ…どう?懐かしいでしょ?
貴女と二人で王都軍1500人を相手にして以来の姿よ?』


炎の両翼を広げたフレアウィッチが勝利を確信した表情でソードウィッチを見つめている。


かつて、戦場で300人を一瞬のうちに灰へと化したその魔女は、
-焔の天使-と呼ばれ、人間たちに恐れられた。


(なんだよ…これ…)


アイアンウィッチは痛みに堪えながらも、初めて見るフレアウィッチの姿に驚いていた。


それもそのはずだ。
これだけの炎がすぐ側にあるというのに、アイアンウィッチは全く熱さを感じていなかったのだ。


『はっきり言って、この状態の私なら、貴女はもとより…レイ様にすら勝てる自信があるわ』


フレアウィッチの両翼は徐々に巨大化していき、遂には見上げる程にまで聳えていた。


ソードウィッチは相変わらずの無表情で、そんな焔の天使を見つめている。


『さようなら…。
愚かな魔女』


フレアウィッチの言葉と同時に翼の形に凝縮されていた灼熱の紅が、ソードウィッチに覆い被さった。


―――ゴォオオオオオ!!

閉じこめられていた膨大な熱量が一気に解放され、辺りの夏草が灰になり砕けてゆく。


(フフ…久しぶりに本気を出しちゃったわ…)


フレアウィッチが勝利の余韻に浸ろうとしていた、次の瞬間だった。


―――ズドォオオオン!!

もの凄い轟音と共に、巨大な火柱が真っ二つに裂けたのだ。


その中央に無傷の姿で立つソードウィッチを目にした時、フレアウィッチは腰を抜かし地面へと座り込んだ。


『え…?なん…で…?』


すぐ傍まで歩いて来たソードウィッチに、完全に怯えた様子のフレアウィッチは尻を擦りながらアイアンウィッチが横たわる位置まで後退りした。


『妾に斬れぬものは無いと言ったはずだが』


ソードウィッチの感情の無い瞳の中、二人の魔女が死の恐怖に固まっている。


『去れ…。
そしてレイに伝えろ。
妾はもう無闇な破壊はしないから、これ以上は追手を差し向けるなと…』

『え?』


完全に死を覚悟していた二人は、耳を疑うようなソードウィッチの言葉に目を丸くした。


『二度も言わせるな…。妾の理性が効いている内に消えろ…』


ソードウィッチの瞳に一瞬だけ垣間見えた狂気の破片に、フレアウィッチは慌ててアイアンウィッチに肩をかしながら立ち上がった。


そして、もう一度ソードウィッチの顔を見つめた。


『何が…貴女を変えたの…?』


フレアウィッチの最後の問いに、ソードウィッチは何も答えず、何かを必死で堪えているかのように奥歯を噛みしめ震えるだけだった。




寄り添いながら二人で丘を下ってゆくその姿に、ソードウィッチは、自分とリディルを重ね合わせる。




もうすぐ夜が明ける。


ソードウィッチは確信した。


もうすぐ溢れ出るであろう涙は、暫くは止められないであろうと…。