『とっくに理解していたんです…。
僕は要らない人間なんだということを…。
だから…このまま、ひっそりと独りで死んで行くくらいなら…
いっそのこと、自らで終らせようと考えたんです…』


孤独な夜に、蝙蝠傘を叩く土砂降りに促されるかのように終わりへと続く丘を下る、死を決断した少年を想像しただけでも、ソードウィッチの胸はしめつけられるように苦しくなった。


『でも、ソードさん…貴女がいた…。
必死で生きようとしている貴女と出会えたんです。そして僕を必要とし、愛してくれた…』


そう言って、リディルはソードウィッチの潤んだ瞳を見つめた。


『それから…貴女と過ごした時間は、僕にとって素晴らしく光輝く世界になった…。
本当は…とっくに濁流に飲み込まれていたはずの、この一年という歳月は…貴女が僕にくれた宝物なんです』


ソードウィッチは悟った。
あの雨の夜、
生きようとしていた独りの魔女と、死のうとしていた独りの少年は、
同じようにこの世界に絶望していたのだということを。


『僕は…僕を貴女と出会わせてくれた母さんと父さんと、この運命に…感謝しているんです。
だから、ソードさん…貴女がこれから僕にくれるはずだった、その愛を…欠片にして…この世界に撒いて欲しいんです』


リディルはそう言って優しく微笑んだ。


『嫌だ…嫌だ嫌だ!!
リディルが居らぬ世界など価値は無い!!
またコーヒーを煎れてくれ!また一緒に星を見よう!な!?な!?頼む!!
頼むから…妾を独りにしないでくれぇ…』


ソードウィッチは子供のように咽び泣き、リディルへとすがり付いた。




『ソードさん!!
僕は今ここで貴女に誓います!!』


リディルは突然、何かを決心したようにソードウィッチを強く抱きしめて声を張り出した。


『遠い未来になるかもしれないが!!
必ず!!必ず…!!
貴女に逢いにゆくと!!
今ここで誓います!!』


業火に囲まれる中でも、弱っているはずの気管から飛び出すリディルの声は、強くはっきり、貫くように届き、ソードウィッチの涙を自然に止めていた。


『だから…だから、それまでこの世界を…愛し守ってくれませんか…?』


リディルはそう言うなり、ソードウィッチの唇に自分の唇を重ね合わせた。



ソードウィッチは瞼を閉じ、この一瞬を永遠のものにすると決めた。



それは
炎に包まれ崩れてゆく景色の中、二人で交わす永遠の夢を秘めた口づけだった…。




―――約束だぞ…―――