気がつけば、1年の歳月が流れようとしていた。

『リディルよ。
飯を作ったぞ』


ソードウィッチは盆に乗せた朝食を持って、リディルの部屋に入って来た。


『おはようございます。毎日すみません…』


ベットに座っているリディルが力無く微笑みかける。


『かまわん。
相変わらず見てくれは悪いが味はよいと思うぞ』


そう言って、リディルの側に盆を置いたソードウィッチは、手を伸ばし少年の柔らかい髪に触れた。


2週間前くらいから病気の容態が悪化したリディルは、1日の殆どをこのベットで過ごすようになっていた。


『ゲホッ…ゴホッ…』


頻繁に咳込み吐血するようになったリディルを、ソードウィッチは昼夜問わず付きっきりで世話をしている。
その合間に、リディルがやっていた屋敷の手入れも入念に行った。


『本当にすみません…。僕のせいで…貴女に迷惑ばかりかけてしまい…』

『そうだな、ならばさっさと治せ』


日々弱りゆくリディルに、ソードウィッチは祈るように言葉をかけ続ける。


『妾を独りにしてくれるなよ』


寝室の窓から差し込む月明かりに照らされたベットの上、ソードウィッチはリディルに寄り添いながら呟いた。


『ソードさん…僕は、こんなに幸せでいいのでしょうか…?
すみません…こんなことを言うのは不謹慎ですかね…』


不意に、リディルがポツリと言った。


『何を…』


言葉を返そうとした瞬間、ソードウィッチは何かの気配を感じ取り、勢い良く体を起こした。


『どうしたんですか?』

急に鋭い表情になったソードウィッチを、リディルが不安げに見つめる。

『少し、待っておれ』


ソードウィッチはコートを羽織るなり、弾かれるように部屋を出て行った。