「そんなことないわよねー?
マサちゃ」

「......お母さん!
宮崎さん困ってるから」


窓の外に向けていた視線を一瞬だけ外して、ミラー越しにお母さんをにらむと、それきり小野くんはまた黙りこんでしまった。


たしかにちょっと困ってたけど、私としては小野くんが何て答えるのかも知りたいとこなんだけどね、とはもちろん言えず。

それから、学校につくまで小野くんのお母さんとなにかを話していたけれど、何を話していたのか自分が何て答えたのかよく覚えていない。





「ありがとうございました」

「いえいえー、マサちゃんはどうする?」

「自転車で帰るからいいよ」


学校の校門のところでお礼を言って、小野くんと二人下ろしてもらう。


「じゃあ私、部室にボールとかスコアブック戻してくるから、ここで。
今日はお疲れさまでした、また明日ね」

「......そう。俺もいく」


てっきり小野くんはそのまま自転車置き場にいくかと思えば、一緒に部室にくるという。

私が肩にかけようとした、試合前のシートノック用のボールがいっぱいつまったボールバッグを奪って。


......部室に用事なんてないだろうに。


こういうとこは変わってないんだよね。
普通は一年生に荷物持たせるものなのに、気づいたら率先して重いものもってくれる。

二年生になっても、キャプテンになっても、そういう優しいとこはちっとも変わらない。