「忘れてくれていいから」

「え?」


おねがいします!と遠くにいる外野手の声が聞こえると、ボールを上げてそちらの方に打つ今日の外野ノッカーのにっしー。


内野ノックはだいたい先生が打つけど、外野ノックは二三年生が交代で打ったりする。

忙しい内野ノックとは違って、外野ノックは距離もあるし、ボール渡しをするときにけっこうノッカーと話す時間もあったりして、まったりした感じだ。


「......修学旅行の時、俺がいったこと」


いきなり話を切り出したにっしーは外野手たちの方を見ながら、たんたんとノックを打つ。

修学旅行の時って......、好きだっていったこと?


「困らせるつもりじゃなかったんだ、ごめん。
どれだけしつこいんだって感じだよね、俺」


しつこいから困ってるんじゃないんだけど......。
むしろ、ちょっと嬉しかったし......。


笑う場面でもないのに振り返って笑うにっしーに何も言えず、無言でボールを渡す。