「こっちが右目。
あっちが左目。
允さん、触らないでくださいよ〜。
わからなくなるから」
キッチンの片隅に小皿を並べて置きながら、莉王は外に居る允に呼びかける。
允はぼんやり夜景を眺めているようだった。
コンタクトを外してしまったので、莉王の視界こそ、ぼんやりとしていたのだが。
それにしても、なにしてても、さまになるな、この人、と思っていた。
本人はそんなつもりはないのだろうが。
なにかマンションのCMのワンシーンみたいだな、と思い、允とその向こうの夜景を眺めていた。
こんな日常あるかな、と思うような光景が、今、本当に目の前にある。
眼鏡を手に、外に出ると、少し風が強くなっていた。
まあ、この高さだから、仕方ないか、と思う。
振り返った允は、
「かけないのか?」
と眼鏡を見て訊いてきた。
「厭です。
よっぽどなにか見たいときだけかけます」