莉王は手すりに縋り、ワインを呑んでいる。

 允は先程まで莉王が手をかけていた椅子に座り、彼女を眺めていた。

「幸せです」
と繰り返す莉王は、余程、そのワインが口に合ったらしかった。

「お前の幸せは少し安くないか?」

 こんなことでそこまで機嫌よくなれるのか、と不思議に思い、訊いてみると、

「いやいや。
 いいじゃないですか。

 人の幸せとはこんな感じのものですよ。

 それに、あまりに大きな幸せだと、なにかしっぺ返しがありそうだけど。

 これだとないでしょう?」
と言い出す。

「小市民だな」

「……忘れてましたよ、貴方の毒舌を。

 今、ちょっと景色とワインに酔ってましたよ」

 一瞬で冷めましたけどね、と莉王は言う。

 彼女は向かいの椅子に座り、チーズをつまむと、また夜景を見ながら、ワインを呑み始める。

 意外にピッチが早く。

 大丈夫なのかと、こちらが心配になる。