風に吹かれて夜景を見ていた莉王が、そっとベランダにある白い椅子。

 座る部分がタイルっぽくなっているそれに手を触れ、言った。

「このマンションも驚きましたが、この家具類はなんなんですか。

 誰のセンスなんですか?」

 俺にはこんな風には整えられないとわかっているようだった。

「事業に失敗して、夜逃げ寸前だった檀家さんから祖父が買い取ったんだ。

 最初は此処に楽隠居、と思っていたらしいんだが。

 この高さが怖いと祖母が言い出して、今は二人で、看護つきの老人用のマンションで悠々自適だ」

 忍が言わなくてもいいと言ったことまで、喋っておいた。

 莉王は、へえーと感心したようだった。

「スムーズにお父さんの代に移行するよう、寺を出て、隠居されたんですか。

 それもまた凄いですね」

 そこか。

 どうもこの女も感性が普通でない。

 だからだろうか。

 一緒に居ると、なんだか楽だ。

 今まで女性と居て、そんなことを思ったことはないのだが。