好きとか嫌いとか言われても、よくわからないな。
それが允の素直な答えだったが、そのまま言ったら、ロクでもない展開になるのは、忍の指導により、わかっていた。
『嘘はつけないって言うんだったら、せめて曖昧に誤摩化して黙っておきなよ』
そう忍は言ったが。
曖昧に誤摩化す。
最も苦手とする分野だ、と思っていた。
ぐずぐず迷うくらいなら、悪い結果に終わるとしても、何事もはっきりさせたい人間だからだ。
だが、今、迂闊なことを言って莉王に逃げられても困る。
ぐっと堪えた。
「すごい素敵なんですけど……。
この部屋、一体」
マンションのベランダからは街が一望できる。
『あれを莉王ちゃんに見せない手はないよ』
と忍は言った。
だが、別に、忍がそう言ったから連れてきたわけではない。
その証拠に——。