「名探偵」

「なんですか?」

 そこで返事をするな、という目をして、同僚の男が横を通っていく。

「全部間違っている」

 そう允は言った。

「この探偵の言ったことは、全部間違っている」

 繰り返さなくてもいいのに、允は何故か二度、その言葉を繰り返した。

「俺は今、花さんに憧れてるわけじゃないし。

 不幸になるためにお前と結婚しようとしているわけでもない。

 第一、不幸になった俺の説教とか厭だろう?」

「鬱陶しいですね」

 鬱々とした光景を想像してしまった。

 雨の本堂。

 暗い顔で、及川たちを前に救いのない話をする允。

「その寺の檀家にはなりたくないです……」