莉王が何か言っている。

 楽しげなその様子に、つい、扉を開けてしまった。

 開けたところで、外より明るいわけでもない店内は、今日はムーディーな雰囲気もなく、陽気だった。

「ええーっ!?
 知りませんよ、そんなことーっ」

 何を話しているのか、莉王はガタイのいい男たちに向かい、何か文句を言っていて、忍も彼らも笑っている。

 静かに呑んでいる風に見せている端のサラリーマンも気づかれないように、俯き、笑っていた。

「王子!
 いらっしゃいっ。

 王様がお待ちかねだよ」
と忍が笑顔で言う。

 当たりは柔らかいが、いつも憂いのある表情の忍が、今日は本気で楽しそうだった。

「王子やめてよ、この歳で」
と言うと、屈強な男二人が一斉にこちらを向いて、

「おーっ。
 王子って感じだね、王子っ。

 王子、ささ、こちらへっ」
と愛想良く、莉王との間を勧められる。

 なんだろうな。
 野郎なのに、襲われそうで怖い、と苦笑しながら、間に入った。