女性の悲鳴に、なんだなんだ、と人が湧いてきた。

 莉王は慌てて、
「あっ、ごめんなさい。
 今、大きな蜘蛛が目の前をぶらーんって横切って」
と一生懸命謝っている。

「なんだ、もうー。
 驚かさないでよ。

 痴漢でも出たかと思ったよー」
とたまに見かける気さくなおじさんが笑って言っていた。

 痴漢って、社内だぞ。

「掃除のおばちゃんに天井も掃除してって言っときなよ」

 蜘蛛の巣を払ってもらえ、と通りすがりの若い男が笑顔で莉王に声をかけていた。

 ごめんなさい、ごめんなさい、と莉王はみんなが去るまで、腰低く謝っている。

 美人だから、というより、莉王のぼんやりとして、厭味のないキャラクターのせいか。

 みんなの莉王への応対は柔らかい。

 廊下の雰囲気が逆に和やかになっていた。

 騒ぎがおさまったあと、莉王は近くまで来ていた自分を見上げる。

 どきりとした。